英語の発音の話 PART5

英語のヒエラルキー

先日、スターウオーズのエピソード3「シスの復讐」が上映開始されました。
これで、思い出したのです。5年位前に、イギリスでエピソード1「ファントムメナス」を見た時のことを。

当時、私がエピソード1を見終わったときの感想は、次のとおりです。映画の物語の筋は別として。
「この映画には、見事に英語のヒエラルキーが示されている。」

具体的に言うと、こういうことです。
ジェダイの英語                  British English
若きアナキンスカイウオーカーの英語     American English
ジャージャービンクスの英語          どこか未開の国の人々が使うEnglish、
                            文法などが、はちゃめちゃ

一口に英語と言っても、いろいろな英語があります。
その中で、本家本元、やはり、イギリスの英語、ブリテイシュイングリシュ、クイーンズインリシュに代表される英語が、一番教養の深い洗練された人が使う英語という暗黙の認識があるようです。オビワンケノービを演じたユアンマクレガーはスコットランド出身ですが、ショーンコネリーがそうであったように、映画では、きちんとしたBritish English を使っています。
個々のキャラクターのこのような英語の使い方が、この映画の殆どの顧客である西欧人にとって一番収まりがよく、自然に感じるので、作り手(原作者?脚本家?)が、そう選択したと思われます。仮に、ジェダイがAmerican English を使うと、奇異な印象を受けるのだと思います。いわんやジャージャービンクスがBritish English を使っていたらどうでしょう。そのキャラクターの設定すら白紙に戻ってしまうに違いありません。
それほど、この英語のヒエラルキーは、西欧人、特に英語を母国語とする人々には根強いものだといえます。

「お里が知れる。」 という言い方がありますが、この場合、
「話す言葉でお里を判断する。」
ともいえるでしょう。
お里だけならいいのですが、ともすれば、きちんとした英語が話せない人は、話の内容を判断される以前の段階で、見下されてしまう可能性もあります。

英語は、そういう意味で、恐ろしい言語です。
あえていえば、
「話す言葉で、人格識見を判断する。」
とでも言えましょうか。
きちんとした英語が話せない⇒きちんとした思考能力、識見がない と見なされるのが普通です。
きちんとした思考能力、識見がある、けれども、それを何らかの事情でうまく英語で表現できない、とは、初対面では、なかなか思ってもらえないのです。
もう、30年位前、私の英語が全然下手であった時代です。詳細は忘れましたが、会話を進めていって、ある時英人にこう言ったことがあります。
「その関係は、因果関係として考えるべきではなく、相関関係として考えるべきである。」
つたない英語でしたが、これを、境に、私を見る目が、かなり変わりました。へえ、こんなことを言えるようなインテリジェンスがあるんだ、てな感じでしょう。

一方で、日本人、このような意味で「言葉」についての認識が甘いところがあるような感じがしてなりません。
「言わなくてもわかるでしょ。沈黙は金なり、ですよ。」
「人となりを見ればわかるでしょ。あの人はうまく発言できないけど、考え方はしっかりしてますから。」
なんて。
これらの一種の「あうんの呼吸」の相互理解が成り立つのは、日本社会が高度に同質化された社会であるからだと思います。もっとも、最近では、この同質性が昔ほど高くなくなってきたので、「アカウンタビリテイ」(説明責任)などと言うことが、もてはやされているのかもしれませんが。

いずれにしても、同質性が低い社会、多様性の高い社会では、「言葉」が背負う役割が、格段に大きくなります。
「ブロークンでもいいんですよ。通じれば。」
たしかに通じるでしょう。でも、それと同時に、程度の差はあれ、ネガテイブイメージをまき散らしていることも忘れてはなりません。
少々厳しい言い方ですが、英語によるコミュニケーションに当たっては、このくらいに考えていた方が無難ではないかと思います。特に、ネイテイブスピーカー、英語を母国語とする人、さらに言えば、英国人に対してです。
私もこういう意味で、そういう人たちと話す時は、いつも張り詰めたものがありました。一方で、ネイテイブでない人とお話するときの、安らいだ気持ちといったら、ありませんでした。特に、東アジアの人たちとは、本当にくつろいでお話ができました。

映画の話に戻ります。
当時、イギリスでは、こういう評がありました。日本でも言われていたかどうかは知りません。
「ジェダイ達の敵役であった通商連合の使っている英語は、日本人の英語に似ている。」
私は、これを聞いて少々複雑な思いになりました。ある意味で、欧米人の日本人観の表れです。

さて、皆さんにはどんな風に聞こえますか。今度、エピソード1を見る機会がありましたら、改めて真偽の程を確かめてみたらいかがでしょうか。

最後に、「スターウオーズ」に関心のある方へ。
「Wikipedia」という、読者参加型のネット上の百科事典があります。ここの「スターウオーズ」の項目を見ると、登場人物のことなど色々なことが分かります。もっとも、上記のような英語のことには触れていませんけど。