英語の発音の話 PART4

紅茶?コーヒー?

今日のお話は、実は奥の深い話です。英語の発音の話として、整理することがいいかどうか、かなり迷いました。
今回は、さらっと発音の話として、深く掘り込まずに構成してみました。

ロンドン在住1年目位の頃でしょうか。出張先で、事務所の英人スタッフと食事している時に、こんな話題になりました。
「紅茶とコーヒーと注文間違えることあるんですよね。」
事務所で最古参、かつ、インテリジェンス豊かで、私が尊敬してやまないSさんが、こういいます。
「んん?それどういう意味?」
「a cup of tea と cappuccino です。a cup of tea と言っても、cappuccino が出てくることがあるのです。」 
「えー?それは似ているけど、あなた方イギリス人でしょ。それでも、そんな間違いあるんですか。」
「あるんですよ。時々」
「・・・・・・・・」

それから、2週間位でしょうか。私、あるこじんまりしたコーヒースタンドで言ってみました。
「a cup of tea, please.!」
で、でてきたのは、一面表面が真っ白の cappuccino でした。

何故、こういうことが起きるか。発音的にはかなり違います。 
1、cup の ア と capp-の ア が 違います。
2、tea の最初の子音はt ですが、 -ccino の子音はt ではありません。

私の考えは次のとおりです。
1、一昔前、例えば、私が最初にイギリスに来た30年近く前は、こういう間違いは、多分起きなかっただろう。
2、何故なら、その頃、ロンドンの街に、今あるような、アメリカ系、大陸系のコーヒーショップは殆どなかったはず。
一般家庭でも、お茶ばかり、飲んでいて、コーヒーは殆ど飲んでいなかったはずです。したがって、そもそも、カプチーノを注文するというようなことがほとんどなかった。
3、ところが、EUの成立、ユーロトンネルの開通などにより、大陸の食生活がロンドンの街に流れ込んできた。スターバックスをはじめ、いわゆるコーヒースタンド、ファーストフードショップがロンドンの街に雨後のたけのこのように出来てきた。
4、そこで、英人も昔と異なり、カプチーノを飲むことが極めて、一般的になってきた。
5、これに輪をかけているのが、EU内の労働の移動の自由の原則で、ロンドンの飲食店には、大陸系のウエイトレス、ウエイターが沢山いる。
6、彼らは、ネイテイブスピーカーではないので、ヒアリングが完璧でなく、上のような間違いをすることが多い。

今のイギリス人は本当にコーヒーをよく飲むと思います。ある時に、日本からの視察者を連れて、英国のある会社を訪問したことがあります。そこで、彼らは、我々にコーヒーいかがですかと勧めます。その後、少し、場が和んできた時に、私は質問してしまいました。
「何故、紅茶を勧めないんですか。私は、昔、イギリスに来て、少し生活したこともありますけど、必ず、紅茶でしたよ。ミルクが先か、お茶が先か、どちらが美味しいミルクテイーを作れるのかなどと、真剣に議論してましたよ。」
「残念ながら、今オフィスでは殆ど、コーヒーです。コーヒーメーカーが置いてあって、いつでも、暖かいコーヒーが飲めるようになっているのも大きな要因ですね。」
ああ、そういわれれば、レンタルのコーヒーメーカーが、オフィスに置いてあるのをよく見かけます。各種会合で出てくる飲み物もまず、コーヒーです。紅茶で有名なフォトナム&メイソンでも、英国人というよりは、日本人を始め観光客で溢れていますし。
まあ、時の流れでしょうか。イギリスのビジネス社会が、ある意味では、国際化してきたというようにもとれるのでしょうか。圧倒的な紅茶派の私としては、英国の一つの伝統が、大陸ナイズ、アメリカナイズされていくようで、寂しいような、歯がゆいような気持ちでした。イギリスの紅茶文化、午後のお茶の習慣も、そのうち、あと20年もすると、日本の抹茶のような、マイナーな存在になってしまうのでしょうか。

参考までに、イギリス英語(この表現自体論理矛盾ですが。)には、口語ですが、こんな表現すらあるのです。
Jazz just isn't my cup of tea- I prefer classical music.
この場合、my cup of tea = the sort of thing that I like という意味です。これは、通常否定形で使われるようです。以上、ロングマン英英辞典からの引用でした。

教訓です。本当に紅茶を飲みたい時には何というか。
「tea, please !」 
でいいんです。申し遅れましたが、そもそもきちんと「一杯の紅茶ください」なんて、言う人がほとんどいないのです。だから、却って、皆さんカプチーノと間違うんです。シンプルに言えばいいのです。こう言って、まず、95パーセント、カップに入った紅茶がでてきます。テイーバッグをポンと一つ渡されるような乱暴なことはまずありません。もっとも、それもごくまれにありますよ。ただ、その場合には、カップに入ったお湯も一緒についてきます。ご自分でどうぞ。という意味です。

残りの5パーセントはこう聞かれるケースです。
「cup? or pot? 」
これは、その店が、カップ売りではなく、ポットでも紅茶を売っている場合にあり得ます。まあ、こういう店はスタンド形式でなく、レストランが多く、かつ、普通はメニューに書いてありますから、めんどくさければ、そのメニューを指させばいいんですけどね。

次に、2つ頼みたい時はどうするか。別に「two teas」 でも通じますよ。相手は殆ど、ネイテイブではないんですから。
日本人は白人とみると、アメリカ人か(第6話参照)、そうでなくても、英語が完璧にできると思っているのが、普通ですが、そんなことは全くないんですよ。英語がネイテイブでない人は、びっくりするほど、英語ができないことがあるんです。ただ、彼らは、臆することなく話すので、英語コミュニケーションの機会が少ない日本人は向こうのペースにはまるだけです。色々な意味で。この辺の話は、またの機会に展開しましょう。

「two teas」は、あまりに乱暴だと思ったら、「tea please! 」と一旦言って、さらに、こういえばいいんです。
「two cups please ! 」
ここで、また、完璧を期して、そのあと、of tea などつけると、2つカプチーノが出てきてしまうかもしれません。
もっとも cup が複数形になっているので、この場合は、聞き間違えられる心配はほとんどありませんけど。

以上、今回は、紅茶のお話でした。