北海道の思い出 第2話 「小樽に置いてきたもの」 後編その1

入院の3週間位前だったでしょうか。S先生の紹介状を手に市立小樽病院の耳鼻科を訪れます。
「ああ、手術ですね。」
殆ど診察もしません。私は、一応、ここでも手術の適応があるか否かぐらいはチェックするのかと思いましたが、そういうことを厳密にしようと言う感じではありませんでした。それだけ、S先生の紹介が権威があるというか、信用があるということなのでしょうか。

先生との話が進むうちに、手術の際は、誰が付き添うのかと聞いてきます。
「手術の場合には、親族に必ず立ち会ってもらいます。場合によっては、輸血が必要になるかもしれませんから。」

え、え、え、輸血ですって。ウエブの情報でも、お医者さんの話でも、そんな血なまぐさい話はひとつもありませんでしたよ。

「これは、万が一ですよ。ちょっと切り過ぎて、出血が多くなることもたまにあるんですよ。そういう時には、輸血していいかどうか、親族の方に確認する必要があるのです。」

はあ、まあそういうものでしょうけどね。さらに続けます。

「まあ、私がこれまで手術してそういうケースはありませんでしたから、大丈夫だと思いますが、大島さんの扁桃腺の根っこが深そうで、そうすると大きくえぐらないと除去できないので、その分、出血のリスクは高まるのですよ。」
「誰が手術するんですか。」
「私が執刀させてもらいます。」
「それでは、よろしくお願いいたします。」

こういうのを「まな板の上の鯉」というのですね。

さらに、前の診察で聞き漏らしていたことを先生に聞きます。
「あの、尿管カテーテルというのは、することになるんでしょうか。」
尿管カテーテルは、いかにも痛そうではありませんか。ウエブの体験談でこのクダリを読んだときからずっと気になっておりました。
「大丈夫ですよ。麻酔の時間が短いので必要ありません。ところで、大島さんは歯は丈夫ですか。差し歯とか抜けやすい歯、ぐらぐらしている歯はありませんか。」

おお、想定外の質問です。
「あの、特にありませんが、どういう関係があるのですか。」
「ああ、手術中に機械を使って、口を強制的に大きく開けた状態にする必要があるのですが、その機械で口を開けるときに、弱い歯が欠けたり、折れたりすることがあるんですよ。」

何ですって。そんなこと、何処にも書いてなかったし、誰も言っていませんでしたよ。
こう答えます。
「はあ、差し歯はありますが、ぐらぐらしていませんから、大丈夫だとは思いますけど。」

次は麻酔科の先生の診察です。ちょっと暗い気分になって向かいます。
「すみませんが、ここに判子を押してください。麻酔の事故が起きたときのことです。まず、起きませんけど。」
何か、万が一のことがある可能性があるが、それを了承して手術を受けることを同意します、といった類の文書が書かれている紙でした。もうよく覚えていませんけど。

ここまでの手続きが終っただけで、すでに精神的に疲れてしまいました。手術はまだまだこれからだというのに。

病室に入ります。お世辞にもきれいとは言えません。救いは、看護婦さんがかわいらしいこと。

その看護婦さんに、ちょっと聞いてみます。
「あなたは、この病室担当なんですか。」
「いいえ、ここは病室担当はないんです。時間の当番制で、今の時間、病室全部回っているんです。」
はあ、そういうものだったんですね。

いよいよ、明日が手術です。

続きは次回にします。